伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』を読みました。
この本を手にしたきっかけ
この『逆ソクラテス』は、表紙のイラストがとてもすてきだなと感じて気になりました。こまかく書き込まれた建物とイラストがすてきです。青と緑と黄色の色が、背景の灰色に映えてきれいです。装画はjunaidaさん、装丁は名久井直子さんです。
タイトル部分を触ると、すこしでこぼこした感触があるところも大好きです。
先日、伊坂幸太郎さんの別の作品『フーガはユーガ』を読み、読み始めると止まらなくなる面白さは、あいかわらずだと再確認しました。ひさしぶりの伊坂作品だったので、別の作品も読みたくなりました。
感想など
この本には、5つの短編が収録されています。
- 逆ソクラテス
- スロウではない
- 非オプティマス
- アンスポーツマンライク
- 逆ワシントン
タイトルに、「逆」や「ではない」などをつかっていて統一感があって、どういうことだろうと、なんだか面白そうな雰囲気をかんじました。
人生の教科書のような物語
わたしが買った本の帯には、いくつかの感想が印字されていたのですが、そのなかに「人生の教科書のような物語」と書かれているところがありました。この本を読み終わって、この言葉がこの小説にぴったりだなあと感じました。
なぜなら、人生の中で覚えておきたい「言葉(台詞)」がいくつもあったからです。
この本を読んで、過去の自分を救ってくれる言葉、これからの自分を支えてくれる言葉に出会うことができました。
「逆ソクラテス」で出会ったすてきな言葉
この本のタイトルにもなっている『逆ソクラテス』が、この本の1作品目です。
このお話のなかにでてくる台詞が、とても印象に残っています。
「僕はそうは思わない。」というセリフです。
小学生の男の子が、クラスメイトの男の子に、この言葉を、まるでゲームの裏技のように教えてくれる場面があります。
この物語を読んで、わたしはこの言葉がだいすきになりました。
ギャンブルとチャレンジ
『アンスポーツマンライク』というお話では、ミニバスケットの試合のシーンから物語がはじまります。試合中の少年は、磯憲先生のこんな言葉を思い出します。その言葉がとても素敵だと思いました。
だけどもし、試合中、次のプレイで試合の流れが変わると信じたら、その時はやってみろ。それはギャンブルじゃなくて、チャレンジだ。試合は俺や親のためじゃなくて、おまえたちのものだ。自分の人生で、チャレンジするのは自分の権利だよ。
p.176
人生には、さまざまな場面があると思いますが、なにかに挑戦しようと思う時に、それは自分にとって「ギャンブル」なのか「チャレンジ」なのか。同じ行動だとしても、「ギャンブル」という気持ちではじめるのか、「チャレンジ」という気持ちではじめるのかは、心の持ちようがとても変わると思いました。
授業中にはじまったお母さんの演説
『逆ワシントン』の中で、授業参観に来たお母さんが突然演説をはじめるという場面があります。その演説がとてもよかったです。子どもの時に、この場面に立ち会いたいと思いました。
子どもの時は、その瞬間の時間が長く長く感じて、辛い時間も長く感じていたような気がします。そんなときに、「大人になったら、こんなことだって起こるかもしれないよ」という可能性を、意識の中に植え付けてもらえたら。「考えていない」「気づいていない」から、言ってしまった言葉、してしまった行動で、傷つくようなことが減っていけばなぁと思わずにはいられないです。
だれにだって、大なり小なり、いろいろな後悔があると思います。どうしてあんなことを言ってしまったんだろう・・・。あのとき自分は、なにも考えていなかったな。気づいていなかったら、あんなことを言ってしまった。恥ずかしくなるようなこともたくさんです。
大人になったからこそ、いろいろな経験をしたぶん、後悔も増えて、はやく教えてほしかったな、この言葉に出会えていたら、この後悔は生まれなかったのかな、などと考えてしまいます。もちろん、その言葉にはやく出会えていたとして、生まれてしまった後悔を、事前に防ぐことができるのかどうかは、わからないです。人はいつだって、ないものねだりをしたり、失敗を悔んだりするものです。そんな後悔があるからこそ、著者が作ることができた物語であり、読者に響く言葉なのかもしれないです。
登場人物たちのようにこどものときに出会いたかった言葉ではありますが、今こうして、出会うことができてよかったとおもいます。すてきな言葉が詰まっているなぁと感じました。
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