本谷有希子さんの『あなたにオススメの』を読了しました。
気づけば隣にディストピアーー
世界が注目する芥川賞作家・本谷有希子が描く、心底リアルな近未来!
内容紹介より https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000352410
この本には、『推子のデフォルト』『マイイベント』の2作が収録されています。
推子のデフォルト
物語の最初、母親が子どもを保育園にお迎えに行く場面からはじまりますが、変わった単語が目にはいります。
右手の甲に埋め込んだICチップを翳す。
p4
須磨後奔(すまあとふぉん)
右手の甲にはICチップが埋め込まれていたり、須磨後奔(すまあとふぉん)というものが登場したり、独特な世界観から物語がはじまったので、最初は戸惑いました。
でも、「GJ」(原人)とあだ名をつけられたこぴくんママが登場し、<オフライン依存外来>という話題がでてきて、面白い世界観だなと惹き込まれました。
「インターネットがない環境(オフライン状態)に依存し、悩まれる方の専門外来です。正しく治療し、インターネットと二十四時間繋がっていられる環境(オンライン環境)で生活できるように支援します。」
p13
なんと、わたしたちが生活している世界と、真逆のことがよしとされている世界です。スマホ依存が問題になる現在ですが、この物語の中では、スマホ依存していないほうがオフラインに依存していて異常だというのです。世の中はデジタルの方向へどんどん傾いていって、世界観が変わっていました。
こぴくんママは、携帯電話を手にする前の時代に戻りたい、あのころに必死に声を挙げればよかったと後悔しています。わたしも、必要ないのに便利になりすぎていくのではないかと嫌悪感を感じて「携帯電話がはじめからなければよかったのに」と強く感じていたときがあったことを思い出しました。いまは「スマートフォン」やデジタル機器の便利さを活用していて、そう思う気持ちは忘れていました。
デジタルが発達していった未来の世界として描かれている世界の物語は、ぞくっとする怖さもあり、面白かったです。
薬局では、こぴくんに自分が好きな歯ブラシを選ばせるなど、人間らしさを大切にしたいと思っていたこぴくんママですが、「周りがみんな家畜だったら、ひとりだけ人間らしく育てる意味はあるのか・・」と悩みます。そんなこぴくんママの心情に共感し、どんな展開に進んでいくのか気になりました。そして、こぴくんママの姿を「面白い生のコンテンツ」として楽しんでいる推子、「等質」に教育される子どもたちの感覚、今のわたしの生きる世界からは、特殊に見えるこの近未来の世界が興味深かったです。
純文学作品のため、ラストは難しいなぁと感じましたが、先の展開が気になりどんどん読み進めたくなる作品でした。
マイイベント
もう1話収録されています。『マイイベント』というお話です。
なかなか癖の強いお話でした。
台風が近づくある日。マンションの最上階に住む渇幸のもとへ、1階に住むバンバ家が避難して来て・・・。
「お裾分けしますよ」
・・・
笑っていない父親の目の中で、赤い血管がどっぷりと膨らんだように見えた。
p.236
わたしは、この場面がぞくっとしました。
この本を読んで連想した読了本
この本を読み終わって、作品の雰囲気が似てるなぁと感じた本や、思い浮かんだ本をピックアップしました。読了した本と本が、繋がっていく感覚が好きです。『あなたにオススメの』を読んだ方は、今後の読書の参考にでもしていただければ幸いです。
東京ディストピア日記
この本は、作家・桜庭一樹さんの日記です。作品のタイプは異なりますが、「気づけば、隣にディストピア」と紹介される今回の本とディストピアつながりでこの本が思い浮かびました。
現在の日本で生活する日記に「ディストピア」というタイトルがつけられるなんて、コロナによってだいぶ変わった世界が感じられるなぁと思いました。
スモールワールズ
この本に収録されている、『ピクニック』『ネオンテトラ』の雰囲気を感じました。
母影
尾崎世界観さんの純文学小説。
今回の本と、内容に関連性はありませんが、作品の世界観から感じた独特な世界観で、この作品を連想しました。
ルビンの壺が割れた
作中の読み進めたくなる感覚で、この本を思い出しました。ただ、わたしは、この作品をあまり好きではないです。(ラストにかけて苦手です。)
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